人を大切にする経営診断
1.「人を大切にする経営」について
「人を大切にする経営」とは、元法政大学・坂本光司先生の提唱される経営理論のことである。会社経営とは、「5人に対する使命と責任」を果たすための活動を言う、とする。その5人とは、①「社員とその家族」、②「社外の社員とその家族」、③「現在顧客と未来顧客」、④「地域社会、とりわけ障害者等の社会的弱者」、⑤「株主・関係機関」であり、この5人を幸せにする活動が求められる。
アメリカでも「人を大切にする経営」への関心が高まっている。2019年のアメリカの経営者会議ビジネスラウンドテーブルにおいて、これまでの行き過ぎた株主資本主義への反省へのコメントがあった。これからは、6つのステークホルダーに対して責任を果たしていくべきである、との声明が出された。
6つのステークホルダーとは、①顧客、②仕入先、③株主、④社員、⑤地域社会、⑥環境、である。昨今注目を浴びているSDGs(持続可能な開発目標)経営も、密接に関連している。
2.社員とその家族を大切にしているか否かの指標
「人を大切にする経営」の考え方をベースとして、中小企業が社員とその家族を大切にしているか否かの指標を下表に整理した。事業の継続性、働きがい、働きやすさ(働き方改革)、安全・衛生、雇用契約、ダイバーシティ、実力主義、経営の透明性など、健全な経営で持続的なビジネスを行い、顧客の継続的な支持を得ている事業者であれば容易に
該当すると思われる。引っかかるところがあれば、そこから課題発掘を広げて経営改善につなげられたい。社員が元気で、経済を牽引する中小企業がますます増えてほしい。
<社員とその家族を大切にしているか否かの指標>
①過去5年以上、希望退職を募ったことなどない
②過去5年以上、有給休暇取得率は70%以上であり、時間単位の制度もある
③過去5年間平均の、正社員の転職的離職率(除くキャリアアップ)は2%以下である
④過去5年以上、重大な労働災害は発生させていない
⑤定期的に就業条件等に関する社員満足度調査を外部に依頼し実施し、その満足度は常に70%以上である。また年2回以上社長や部門のトップが社員と面談をしている
⑥正社員比率(無期雇用社員)は90%以上である
⑦実質定年は70歳以上であり、70歳以上社員もいる
⑧社員が自社株を保有できる制度があり、血縁のない社員出身の取締役がいる
⑨財務内容等主要な経営情報は全社員に毎月公開し、理解を深めている
⑩社員一人当たり月間平均所定外労働時間は10時間以下であり、サービス残業もない