あらためて想う中小工務店のDX事例の痕跡と教訓

1.地域工務店にもDX事例があった!

 大手ゼネコンによる建設DX推進が喧しい昨今ですが、実は地域工務店でも建設DX事例は存在していました。それも20年以上も前に・・

「鹿児島建築市場」を聞いたことがありますか。鹿児島県内の地域工務店や関連業者約50社が、IT関係の有限会社ベンシステムとNTT鹿児島支店が1990年代後半に共同開発した情報システムを使った業務改革の
事例で、木造住宅の設計から施工・廃材回収までの全過程を参加工務店共通のシステムで処理し、原価低減や業務効率化を実現した当時の画期的取組です。

2.鹿児島建築市場の仕組み

 CADを組み込んだ設計と見積り、確認申請や性能評価のデータの管理を中心機能として、参加工務店の必要資材の共同発注・共同配送手配も行い、電子掲示板「ザ・現場監督」と現場のWebカメラで工事の進捗や品質管理を行うというものでした。

3.地域工務店DXの顛末

 しかしながら「鹿児島建築市場」は短命に終わりました。当初の評判を聞きつけた全国の工務店が幾多のグループを作ってベンシステムに支援・指導を仰いだのですが、工務店グループを作っただけで一向に自社業務への適用にまでブレイクダウンさせることができず、ベンシステムとしても収益源を確立できなかったために、成功していた「鹿児島建築市場」のシステム維持管理も困難となったことが直接の原因です。

4.鹿児島建築市場の教訓

 これは小さくとも一国一城の主同士であるため微妙な仕事の進め方の違いにこだわり続けたことや、システムへの主体的な習熟こそが本業を改革するために真剣に向き合うべき今現在の最重要な仕事なのだと腹を括れなかった当時の工務店経営者の思考回路がもたらした帰結はないかとも推察できます。
 それから20年を経て、工務店経営者の多くは世代交代しており、デジタルネイティブとまでは言わないまでも思考回路のデジタル適応も進んでいるはずです。ならば今こそDXによる水平連携に本気になる時期に来ているのではないでしょうか。