後継者が決まっているなら民事信託は有力な選択肢
2006年の信託法改正で、個人でも信託契約ができるようになったのはご存知でしょうか。それが民事信託です。
1.経営者の認知症対策として有効
近年、認知症対策分野で成年後見人制度があまりにも硬直的な対応(現行制度は国連から廃止勧告を受けています)なのに比べて、民事信託は”民事契約自由”が原則なので、契約時点で経営者が認知症等になっておらず、かつ後継者が決まっているなら、柔軟な事業継承を行うことが可能です。
2.自社株式・事業用資産の権利を実質的に分割
民事信託で事業承継を行う場合、自社株式や事業用資産の所有権を管理・処分する権利とそこから収益を享受する権利に分割し、後継者たる受託者が管理・処分権を取得し、委託者であり現経営者である受益者が収益権を取得します。
これにより、後継者(=受託者)は議決権や会社資産を処分する権利を得ることになり、現経営者は配当権等の収益を得ることが出来ます。
3.当面は実権を渡さないことも可能
経営者によっては、「後継者が若輩で危なっかしいので事業承継は数年先」という方もいるでしょう。でもその間にご本人が認知症や大病・大事故などに遭うと会社は何も意思決定が出来なくなります。
民事信託では、管理・処分権は後継者に移しながらも、指図権を設定して現経営者が指図の権利を保持し続けることが可能です。そして、現経営者が時機をみて、あるいは認知症や大病・大事故というエピソードが発生したら後継者に完全に経営権を移すというプロセスを設定することが出来ます。
4.契約時点での課税はない
事業承継の大きなハードルは株式名義の異動による課税の問題ですが、民事信託で管理・処分権を後継者に移しても贈与税・譲渡税などの課税関係は発生しません。収益権が委託者=現経営者=受益者に残リ続けるためです。
経営者が認知症や大病・大事故などで判断意志能力を失ったために経営機能がストップした事例は多く、また70歳を超える頃からはそのリスクが急激に高まります。
健常なときに民事信託によってリスクの芽を摘んでおくのは、事業承継プロセスでの有力な選択肢と言えるのではないでしょうか。